昭和62年か63年頃のこと。
その当時使用していた透析装置は、個人用透析装置DBB22が10台、個人用透析装置NCD11が5台、透析用監視装置DCS22の20台で、DCS22に透析液を供給している多人数用透析液供給装置DABは、1階の機械室に設置してあった。
DABに使用していた透析原液は重曹透析用の「レナゾールBC」(ミドリ十字社)、個人用透析装置は重曹透析用の「キンダリーAF1号」(扶桑薬品)を用いていたので、透析室には「キンダリーAF1号」が配置してあった。
血圧が下がりやすくなる酢酸透析の弱点を逆手にとって、透析後半、血圧が上昇する患者さん1人は「レナゾール」で酢酸透析を行っていた。
夜勤勤務であったため、午後3時に透析室に行くと、本来透析室では使用しない透析原液「レナゾールBC」(ミドリ十字社)のA液が、6割ほど減った状態で置いてあった。
キンダリーAF1号を用いようが、レナゾールBCを用いようが何ら問題はないのだが、事態はとんでもないことになっていた。
本来透析室には配置していないレナゾールBCが何故あるのか、誰に使用したのか、昼間勤務の技士に聞いたところ、酢酸透析の患者さんに使用し、しかもアセテートモード(酢酸透析モード)で行ったことが判明した(その瞬間ボクの顔色が変わったと思う)。
※レナゾールBCを配置した技士は1年目の新人で、レナゾールとレナゾールBCも同じ透析液と思っていた。
「その患者さんはどうした!」と看護師に問うと、激しい嘔吐を繰り返し入院しているという。
すぐに医師に報告したのは言うまでもない。
透析に従事している方は、このブログを読んで何が起きたかお分かりでしょうか。
重曹透析液は、アルカリ化剤に重炭酸が30mEq/Lとアセテートが8mEq/Lが入っているが、重曹透析液のA液だけを用いて透析を行えば、アルカリ化剤は8mEq/Lだけになる。
それで透析を行えば、アシドーシス(血液のPHが下がる、酸性になる)が亢進し、アシドーシスに耐えられなくなった人体は、嘔吐して胃液(胃液は強酸)を体外に出すことによってPHを上げようとする。
重曹透析液のA液をアセテートモードで使用して、濃度警報が発令しないのか疑問を持つ技士の方がいると思う。
27日のブログに、透析液の希釈率を次のように記載した。
酢酸(アセテート)透析は、透析原液:希釈水=1:34
重曹(バイカーボ)透析は、A原液:B原液:希釈水=1:1.26:32.74
酢酸透析は35倍希釈、重曹透析もA原液とB原液+希釈水は35倍希釈、A原液にはB原液分のNaが入っていないので、重曹透析用のA原液をアセテートモードで使用しても、所定のNa140mEq/Lになり濃度異常はおきない。
現在の透析装置でも、このようなトラブルを防止することはできないが、すでに酢酸透析液は販売されていないのでトラブルは起きない。
野遊人