現在の透析は重曹(バイカーボ)透析だが、30年前の透析は酢酸(アセテート)透析が主流であった。
重曹透析、酢酸透析とはと問われても、透析室で働くスタッフでも答えられない人がほとんどではなかろうか。
それも無理はない話で、透析剤を製造・販売している扶桑薬品のHPを見ると、酢酸の透析液はなく、すでに絶滅危惧種になっていた。
人間の体液は、常にPHが7.4を保つようにコントロールされているが、腎不全になると尿毒素が腎臓から排泄されにくくなり、尿毒素の一つである酸性の物質も体内に貯まり、体液は酸性に傾く(PHが下がる)
透析治療ではいろいろな尿毒素を取り除き、酸性に傾いた体液を是正するためにアルカリ化剤を補充する。
アルカリ化剤には重曹か酢酸が用いられる。
重曹は直接重炭酸が放出されて体液が是正されるが、酢酸は一旦肝臓で代謝されて重炭酸に返還される。
酢酸は、酢酸自体殺菌作用があり、透析液の管理が楽である一方、除水によって血圧が下がりやすいところに酢酸には血管拡張作用によって、さらに血圧を下げてしまう欠陥があった。
では何故重曹透析でなく酢酸透析が主流であったのか。
簡単に行ってしまえば重曹透析が行える透析装置がなかった一言に尽きる。
ボクがこの仕事に従事する前の透析は、バッチ式と言って大きなタライの中に透析液を作製して行っていた。
そうすると、時間の経過とともに、透析液の重炭酸とCaやMgの二価のイオンが結合して結晶を作ってしまい、薬効が失なったり装置に故障を起こさせてしまう。
※そのため重曹の透析液は2剤に分かれている。
因みにキンダリー4号(扶桑薬品)透析液の組成を示しておこう。
現在の装置は連続的に透析液を作製し、PH調整剤の氷酢酸を加えることによりPHを下げて(PH7.2)結晶化を防止している。
重曹透析の優位性がわかっていても、一気に透析装置を更新することができなかったので、酢酸透析の装置に日機装社製のNa注入器をつけて、重曹透析を行っていた。
重曹透析に代えて「透析がすごく楽になったけど、こんなに楽になっていいのかしら」と言った患者さんの言葉が忘れられない。
野遊人