三女から「永遠のゼロ、絶対観るべし」とメールが入ったのは、昨年末のことである。
催促されなくとも鑑賞しようと思っており、大みそかの午後、正月の準備も終わったので観てきた。
祖母の死後、実の祖父は特高に志願して戦死したことがわかり、孫の慶子と健太郎は祖父の戦友を訪ね祖父の軌跡をたどる。
宮部久蔵は天才パイロットであった反面、臆面もなく「生きて帰る」を口にし、無謀な作戦を「無理」と言ったがために、航空隊の仲間からは“航空隊きっての臆病者”とさげすまされていた。
しかし調査を進めるほど、別の祖父の評価が出てくる。
パイロットの教官である祖父は、仲間に命を大切にしろと悟し、訓練に失敗して墜落した練習兵をなじる上官に「そうではありません」と練習兵をかばったためにこっぴどく殴られる。
「死んでお国に尽くそう」「靖国で再会しよう」と潔く死んでいたとされるが、本音を語ることが許されなかった時代の象徴だと思う。
日本本土が空襲を受けるようになり、本土決戦に向けてボクの母は竹槍の訓練をやらされ、こんな状況になっても「日本は勝つ」と言わなければならなかった時代の史実である。
ともすれば退屈に感じてしまうドキュメンタリーっぽい取材が、作者の上手な展開でハラハラドキドキ、涙なしには観られない作品となっている。
ぜひ一度ご覧ください。
野遊人
ダイアナ元妃を世界で最も有名な人、また世界中の人から親しまれていると言っても過言ではないでしょう。
チャールズ皇太子と別居してから亡くなるまでを描いた映画「ダイアナ」を観てきた。
チャールズ皇太子は、ダイアナ元妃と出会う前からカミラ夫人と恋仲にあり、お互いに別の相手と結婚してからも、その間ずっと不倫関係にあり、この不倫が原因で、チャールズとダイアナの夫婦関係が崩壊していった。
一方、ダイアナ元妃は窮屈な王室を受け入れることができず孤立し、また王室も彼女を受け入れなかったのも破たんの原因であったと思う。
別居してからパキスタン人の心臓外科医ハスナットに惹かれ、関係を深めていくが、
・イスラム教徒のハスナット
・離婚歴があり、あまりにも有名なダイアナを受け入れない厳格なハスナットの母親
・仕事に集中できる環境を望んだハスナット
が障害となり、煮え切らないハスナットに別れを告げるダイアナ。
才能にあふれ、多くの人の尊敬を集めても、本当に欲しいものが手に入らないこともあるということを教えてくれた映画だった。
ダイアナを演じたナオミ ワッツがすばらしかった。
野遊人
福山雅治主演の、赤ちゃん取り違えを題材にした映画「そして父になる」を観てきた。
大手建設会社に勤め、都心の高級マンションに住む福山雅治演じる野々宮夫婦と、群馬で小さな電気店を営む夫婦の間で、6年間育てた子供の取り違えが発覚する。
事件を起こした病院側は、過去の例では100%血のつながりを優先すると言い、両家の交際が始まるが、野々宮は相手方の粗野な言動が気に入らない。
人生に勝ち続け、エリート街道を進んできた野々宮は、子育て、子供の教育で価値観が全く違う中で子供の交換が行われる。
しかし野々宮はここから“父”としての葛藤が始まる。
ストーリーは以上のように展開するが、観終った感想をどのように表現すればよいのだろうと、暫く声を失ってしまった。
血縁とはなにか、家族とはなにかを問われるような映画だったが、今朝の新聞に、女性セブンのCMがあり、そこには、(この映画の)実在モデル女性「納得できない。あの人たちは私の心の傷をわかっていない」と大きな見出しが掲載されていた。
実在モデルとは、自分の境遇と比較して野々宮家の幸福をねたんで、故意に赤ちゃんを取り換えた看護師ことと思ったが、ここでいう実在モデルとは一方の当事者のことだろうか。
そうだとするなら、野々宮家を中心とした映画(脚本と言うべきか)であるため、片方の当事者の思いが100%反映されないのは致したかないのではないだろうか。
赤ちゃん取り違えの事件は、自分が考える以上に苦悩が深い出来事だということを思い知らされた。
野遊人
多くは飼い主の勝手な理由で保健所に引き取られた犬は、7日間に飼い主が見つからなければ、保健所の〝規則”にしたがって殺処分される。
処分の役目を担わされているのが、主人公の堺雅人さん。
規則を破って何とか飼い主が見つかるまで保管期間を延ばそうとするが、規則を盾に主人公を叱責する上司。
そこへ人間不信に陥った野良犬化した親子の犬が捕獲されて保健所にきた。
この先が映画をご覧あれ。
犬好きでない方が見ても涙なしでは観ることはできない作品。
もちろん犬好きのボクは何度も涙を流した。
犬を初めて飼うとしたら、飼う前にこの映画を観てからにしてくださいと言いたい。
それにしても堺雅人さんの眼がとても優しい。
それでいて「ジェネラルルージュの凱旋」のニヒルなDr.役とは対極にある役柄だった。
野遊人
山田洋次監督の、監督生活50周年にあたる記念すべき作品で、2011年4月にクランクインを目指していたが、東日本大震災と福島原発のメルトダウンという事件に遭遇し、製作を延期したもの。
延期に当たっては、この事件を入れなければこの国を描けないと書き直され、製作された。
長引く不況から抜け出せず、先も見えない、どこへ向かって進めばよいのか、そんな模索している私たちに笑いと涙を届けてくれる素晴らしい作品だ。
最近の山田監督の作品は感動ものが多いだけでなく、年2本の「男はつらいよ」を作製しながら他の映画を撮っていた頃の作品と比べる、ときめ細やかに仕上がっている気がする。
キャストの誰もがすばらしい。
一度ご覧ください。
野遊人