殆どの透析施設では、多人数用透析液供給装置で透析液を作製し、それを各透析監視装置に送液して透析を行っている。
一日の透析が終わると、装置を洗浄するために自動運転に入れる。
自動運転に入れると、水洗→薬洗→水洗(2日に1回酸洗が加わる)が行われ、翌日(日曜日を挟むと翌々日)水洗→液置換が行われ、透析工程に入る仕組みになっている。
液置換工程は、透析監視装置を正常な濃度の透析液に置き換える工程のことで、もし液置換を行わずに透析を行うと、患者さんの血液が水や薬液に触れることにより血液が破壊されて(溶血という)、場合によっては死亡させてしまうことになる。
これを“水透析”と呼んでいる。
それを防止するため15年前まで、液置換工程に入っているか、全台の透析監視装置の緑の表示灯が点灯しているか確認することにしていた(ランプ切れも確認できる)
ある公立病院の透析室で“水透析”の事故があった。
透析用の針を2本刺して血液回路を接続して血液ポンプを回したところ、血液ポンプが回らない。
電源が落ちていることに気づいたスタッフは、電源を入れて透析を開始したところ事故が発生した。
その病院の透析装置の主電源(ブレーカー)は装置の左側にあり、ブレーカーには赤いテストボタンがついている。
テストボタンはブレーカーが正常に機能するか(漏電等が起きたとき通電を遮断する)確かめるスイッチで、おそらく装置の洗浄中、布団などがテストボタンに接触してブレーカーが落ちたものと思われる。
洗浄中にブレーカーが落ちたので、装置内は水もしくは薬液で満たされており、それを知らずに血液ポンプを作動させ、運転スイッチを入れたためにおきた事故であった。
それを聞いたボクは、同じ装置を使用していたので、プラスチックの板にマグネットテープを貼り、ブレーカーに触れないように対策を立てた。
というのは、透析中に主電源が落ちると、警報を発せずに装置が停止してしまい、それに気づかない恐れがあるからだ。
現在当法人で使用している装置はブレーカーはついておらず、透析監視装置には濃度セルがついていて、常時透析液の濃度を監視しているので“水透析”はおきない。
これは事故の発生(他にもあったと思われる)を受けたメーカーが、事故を教訓に対策を講じた結果である。
野遊人