通常透析患者さんは週3回透析を受けるので、月水金もしくは火木土のスケジュールになる。
透析歴40年を迎えて昨年亡くなった透析患者さんが、昔3日目の朝は早く透析をやってほしいと思ったよ、と言われたが、意味がよくつかめなかった。
この患者さんが透析を導入した頃、ダイアライザーと呼ばれる人工腎臓は、今のようなホローファイバー型のものではなく、透析効率が悪かったため、尿毒素の除去が悪く、アシドーシス(体液が酸性に傾いている)の改善も悪かった。
透析が2日空いた日は最もアシドーシスがひどくなり、生体は胃液を出して体液を是正しようとする(1月29日のブログを参照してください)
だから胃がむかつくので早く透析をしてほしいとなる。
透析を拒否していた人の話。
現在では見受けられないが、昔“透析を行うようになったら人生は終わりだ”と思う人が何人かいた。
保存期腎不全で外来通院していた患者さんが、「そろそろ透析」の話を聞いて外来受診に来なくなるケースがよくあった。
電話を掛けたり家庭訪問などして受診を促すが、時には鬱血性心不全を併発して救急車で搬送されることもあった。
透析を拒否していた人も、救急車で搬送された人も、透析を受けて一様に「こんなことなら早く透析をやっていればよかった」と言う。
どういうことか説明すると、気持ち悪いのを我慢して透析を拒否していたが、透析を行うとアシドーシスが改善し、気持ち悪さがなくなるからだ。
不幸にして腎臓が悪くなり、透析を受けるようになっても、新しい人生の始まりと気持ちを切り替えられるようなサポートをするのが透析室のスタッフの役割。
頑張ろうね。
野遊人
昭和62年か63年頃のこと。
その当時使用していた透析装置は、個人用透析装置DBB22が10台、個人用透析装置NCD11が5台、透析用監視装置DCS22の20台で、DCS22に透析液を供給している多人数用透析液供給装置DABは、1階の機械室に設置してあった。
DABに使用していた透析原液は重曹透析用の「レナゾールBC」(ミドリ十字社)、個人用透析装置は重曹透析用の「キンダリーAF1号」(扶桑薬品)を用いていたので、透析室には「キンダリーAF1号」が配置してあった。
血圧が下がりやすくなる酢酸透析の弱点を逆手にとって、透析後半、血圧が上昇する患者さん1人は「レナゾール」で酢酸透析を行っていた。
夜勤勤務であったため、午後3時に透析室に行くと、本来透析室では使用しない透析原液「レナゾールBC」(ミドリ十字社)のA液が、6割ほど減った状態で置いてあった。
キンダリーAF1号を用いようが、レナゾールBCを用いようが何ら問題はないのだが、事態はとんでもないことになっていた。
本来透析室には配置していないレナゾールBCが何故あるのか、誰に使用したのか、昼間勤務の技士に聞いたところ、酢酸透析の患者さんに使用し、しかもアセテートモード(酢酸透析モード)で行ったことが判明した(その瞬間ボクの顔色が変わったと思う)。
※レナゾールBCを配置した技士は1年目の新人で、レナゾールとレナゾールBCも同じ透析液と思っていた。
「その患者さんはどうした!」と看護師に問うと、激しい嘔吐を繰り返し入院しているという。
すぐに医師に報告したのは言うまでもない。
透析に従事している方は、このブログを読んで何が起きたかお分かりでしょうか。
重曹透析液は、アルカリ化剤に重炭酸が30mEq/Lとアセテートが8mEq/Lが入っているが、重曹透析液のA液だけを用いて透析を行えば、アルカリ化剤は8mEq/Lだけになる。
それで透析を行えば、アシドーシス(血液のPHが下がる、酸性になる)が亢進し、アシドーシスに耐えられなくなった人体は、嘔吐して胃液(胃液は強酸)を体外に出すことによってPHを上げようとする。
重曹透析液のA液をアセテートモードで使用して、濃度警報が発令しないのか疑問を持つ技士の方がいると思う。
27日のブログに、透析液の希釈率を次のように記載した。
酢酸(アセテート)透析は、透析原液:希釈水=1:34
重曹(バイカーボ)透析は、A原液:B原液:希釈水=1:1.26:32.74
酢酸透析は35倍希釈、重曹透析もA原液とB原液+希釈水は35倍希釈、A原液にはB原液分のNaが入っていないので、重曹透析用のA原液をアセテートモードで使用しても、所定のNa140mEq/Lになり濃度異常はおきない。
現在の透析装置でも、このようなトラブルを防止することはできないが、すでに酢酸透析液は販売されていないのでトラブルは起きない。
野遊人
個人用透析装置は、ボトルに入った透析原液を指定された希釈率で希釈し、透析液の希釈倍率は以下のようになっている(どの薬品会社の透析液でも)。
酢酸(アセテート)透析は、透析原液:希釈水=1:34
重曹(バイカーボ)透析は、A原液:B原液:希釈水=1:1.26:32.74
希釈方法は透析装置のメーカーによって異なり、日機装は指定された希釈率になるように透析原液の注入ポンプのスピードを決め、所定の濃度に希釈されているか濃度セル(伝導度セル)でモニターする。
ニプロは(当時の装置)指定された濃度になるよう濃度セルで原液注入ポンプを制御する方法を取っていた。
ニプロのNCD11で重曹透析中、つまりA液とB液の2剤の透析原液を使用、今日に限って濃度表示が妙にばらつく、つまり濃度の表示が安定しないことに気づいた。
濃度セル現役注入ポンプの不良?と思ったが、よく見るとA液とB液の差し込みが逆になっている。
濃度はいつもより不安定であるが、Na濃度は140mEq/L前後であるから大事には至らないが、重曹が過多になっている。
どういうわけか説明すると、A液注入ポンプはNa濃度110mEq/Lに設定、そこに140mEq/LになるようにB液ポンプが作動する。
透析原液が逆に差し込まれているから、A原液に対してB原液はかなりNa濃度が低いので、B液注入ポンプはNa濃度110mEq/Lになるように作動するから重曹は相当多く注入され、逆にA液は少なくなる。
日機装のDBB22で透析原液を逆に差し込むと、、B液の濃度計は濃度警報(高)、透析液濃度も高の警報が発令して、透析液がダイアライザーに流れることはない。
透析原液のミスは他にもあったことは後日のブログで。
野遊人
暖冬から一変、この冬一番の寒波が到来し、日本列島は冷蔵庫の中のような寒さに襲われた。
寒波で思い出すのは
ボクが勤めていたクリニック豊橋が、新館建設を終えて初めて迎えた冬のこと。
朝出勤の準備をしていると職場から「多人数用供給装置が警報を発しています」と電話が入った。
透析機械室へ行くと、多人数用供給装置が“給水圧低下警報”を発している。
逆浸透装置の故障を考え装置が設置してある1階のプレハブ小屋へ行くと、原水タンク渇水警報を発令している。
断水?そんなことはない、水道は出ている。
受水槽から逆浸透装置へ送水するポンプは作動している、バルブも開いている、何?
試しに散水栓の水を出してみると出ない、配管が凍ったのだ。
厨房へ行って湯をもらい、配管に湯をかけて何とか復旧した。
寒波の到来が原因と言うより、逆浸透装置をプレハブの小屋に配置したのが間違い。
以後、今日まで7回施設を新築したが、施設内に装置を設置することになった。
野遊人
腎不全になると、血液を作るホルモンであるエリスロポエチンの分泌が減少し、尿毒素により血液の寿命が短くなるなどの理由により貧血になり、これを腎性貧血と言う。
透析治療を行うようになると、血液回路に残った血液を廃棄するため、さらに貧血は亢進する。
どの位貧血になるのか、個人差はあるものの概ね健常者の半分。
しかし1990年にエリスロポエチンが製造・販売され、腎性貧血は基本的には解消された。
ボクが透析医療に携わった時はもちろんエリスロポエチンはなかった。
まだエリスロポエチンがなかった昭和63年、患者会の会長が富士山に登りたいとの訴えがあり、援助できないかスタッフで検討し、実行することになった。
4月に棚山高原、5月に伊吹山などに登ってトレーニングを開始、確か7~8名の患者さんが参加したように記憶している。
8月いよいよ富士山にトライ。
間の悪いことに、92歳になるボクの祖父の容態が悪くなり、直前になってボクは富士山に同行することを断念した。
正直に言って、誰も山頂には立てないだろうと思っていたが、二人の患者さんが完登したとの報にビックリした。
後日、このことを聞きつけた地方紙、全国紙、合わせて5つの新聞社が、快挙として新聞に掲載した。
健常者でも登頂を果たせない人がいるのに、二人の精神力と体力には感服。
貧血がどのくらい影響を与えるかは、昨年11月2日の「1年ぶりのハーフマラソン」を参照してください。
野遊人