心臓カテーテル検査は、心臓に特殊な細いプラッチックの管(カテーテル)を挿入し、心臓内の圧や血液の酸素濃度を測定・分析したり、造影剤を注入してX線撮影し、心臓の血液状態や形、心室・心房と弁の動きを調べたり、さらには心臓の筋肉(心筋)を採取して病理学的に検査する心筋生検などを行なう検査。
検査の結果治療が必要となり、風船治療やステントの挿入術になると、造影剤の注入量は多くなる。
腎機能が悪化している患者さんは、時には検査に用いた造影剤により腎機能がさらに悪化することがある。
そのような患者さんに心臓カテーテルによる検査や治療を行った時は、造影剤を抜くために、検査後ただちに透析を行う。
心臓カテーテル検査は日中に行われるが、救急車で搬送される患者さんの場合は日中とは限らず、深夜・日曜日の区別がなく、出張透析も当然深夜・日曜日の区別なく依頼がある。
だから日曜日はもう一人の技士と交代でポケベル(今では絶滅危惧種)を携帯し、携帯電話が普及してからは携帯電話になった(かなり早い時期から携帯電話を持っていた)
どんな時間帯であっても、すべての依頼に応えていたのは、若かったからできたのかな?
出張透析の依頼は病院から勤務先のクリニックに電話が入り、当直の看護師から我が家に電話が入る。
夜、女性から(時には男性看護師の時もあるが)電話が入り、「仕事だ」の一言で家を出て行っても、カミさんは何も疑わずにボクを送り出すのは、愛人など作れるような甲斐性がある男ではないことを分っているからか。
野遊人
30年前の話。
豊橋には心臓疾患の治療で全国的に有名な国立療養所豊橋東病院があった(現在の国立病院機構 豊橋医療センター)
冠動脈の重要な部位に閉塞が見られる透析患者のSさんは、急性心筋梗塞が発症して心停止する恐れが十分な状態であった。
当時、透析患者さんの心臓疾患に対して外科治療、手術は行わないのが一般的であったが、病院を受診したSさんは、何もせずに死を待ちたくないと手術を決意。
病院から術中から術後の出張透析の依頼があり、当然ボクたちはその要請に応えた。
手術は無事終わり、暫く毎日出張透析を行っていたが、残念ながら患者さんは亡くなってしまった。
この手術の執刀医は、透析患者であっても問題なく手術でき、術後は透析で体液量のコントロールをしっかり行えば、腎不全の患者さんも手術で救えると確信、以後、ボクが勤めるクリニックでは、心臓疾患を抱える患者さんを豊橋東病院に紹介するようになり、市内の透析施設に通う患者さんも豊橋東病院で治療を受ける患者さんが急増した。
当然出張透析の依頼は増え、3台の透析装置を駆使して、ひとりで一日9人の透析を行ったこともあった。
現在、多くの病院では、腎不全があっても普通に心臓の手術を行っている。
当法人の患者さんの中には、手術をして元気に透析に通院している患者さんが何人かいる。
余談になるが、当時腎不全がなくても70歳以上(年齢は正確ではないかもしれない)のお年寄りは手術を行わなかったが、今ではその垣根は取り払われている。
野遊人
透析設備のない病院で、入院治療している患者さんに腎不全が悪化したケースがあった。
患者さんの主治医は、透析の医療機器を販売しているディーラーに相談し、ディーラーから透析装置を設置するので、透析装置を操作していただけないかと依頼があったのが、出張透析の始まりであった。
数回の出張透析を行い、患者さんの容体が安定し、無事退院の運びとなった。
以来、時々出張透析の依頼が入るようになった。
苦い経験から教訓を得る。
ディーラーによる透析装置の手配が遅れ、透析を行う前に、高K(カリウム)血症で患者さんが亡くなったことがあった。
ディーラーに頼っていては、助けられる命も助けられなくなる、そう判断したボクはO事務長に、出張透析用の装置を1台購入をお願いし、二つ返事でOKをもらった。
コンテナボックスに血液回路やダイアライザーなどの必要物品を入れ、いつでも出かけられるように準備した。
以来、クリニック〇〇に頼めば応えてくれると、評判と信頼が高まり5か所の病医院から出張透析の依頼を受け、出張透析は多忙を極めるようになった。
以後続く。
野遊人
12月25日のブログ「ベテラン患者は装置を信用しない」で、ベテラン患者さんは予定通り除水できているかを、顔のしわ、手首や足首のむくみの具合でチェックしていると記したが、透析の途中で透析装置の故障を訴えた患者がいたケースを紹介しよう。
透析を開始して2時間ほど経過した時、「引けてない気がする、と患者さんが言っているけど」と連絡が入った。
引けていないとは、除水ができていないという訴え。
すぐにベッドサイドに行って透析装置の静脈圧と透析圧を確認すると、除水速度に対して透析液圧が低い(正確にはTMPを算出)。
透析装置のサイドカバーを外して装置内を確認すると加圧ポンプが停止している。
加圧ポンプが作動しないと、装置の配管内に所定の圧力がかからないため、設定した除水ができないうえ、透析液の出入りのバランスがくずれる。
といっても全く除水ができないのではなく、50~70%ほど除水量が低下する。
それでも当時のベテラン患者さんはいつもとの違いを感じ、異常を察知する。
以下はこのケースの余談。
透析記録用紙を見ると開始から加圧ポンプは停止していたようで、昨夜行った夜間透析は問題なかったか、この装置で透析を行った患者さんの透析記録用紙を見ると1L近く引き残して帰宅している。
そして透析記録用紙に「次回体重を確認してください」の文字が!(これを見たボクは怒りが爆発する寸前だった)
担当した看護師を捕まえ、次回体重を確認してどうするんだ!
すると看護師は「体重の測定間違いか見間違いかと思って」と言う。
装置の故障を考えないのか!今日の透析前に装置の異常がないか調べてくれとボク依頼すれば、5分で診断がつく!装置に異常がなければ測定間違いか見間違いと判断できる!と、怒りを抑えて看護師に言った(でも口調は厳しかったと思う)
少し考えれば未然に防止できたトラブルの一例。
野遊人
殆どの透析施設では、多人数用透析液供給装置で透析液を作製し、それを各透析監視装置に送液して透析を行っている。
一日の透析が終わると、装置を洗浄するために自動運転に入れる。
自動運転に入れると、水洗→薬洗→水洗(2日に1回酸洗が加わる)が行われ、翌日(日曜日を挟むと翌々日)水洗→液置換が行われ、透析工程に入る仕組みになっている。
液置換工程は、透析監視装置を正常な濃度の透析液に置き換える工程のことで、もし液置換を行わずに透析を行うと、患者さんの血液が水や薬液に触れることにより血液が破壊されて(溶血という)、場合によっては死亡させてしまうことになる。
これを“水透析”と呼んでいる。
それを防止するため15年前まで、液置換工程に入っているか、全台の透析監視装置の緑の表示灯が点灯しているか確認することにしていた(ランプ切れも確認できる)
ある公立病院の透析室で“水透析”の事故があった。
透析用の針を2本刺して血液回路を接続して血液ポンプを回したところ、血液ポンプが回らない。
電源が落ちていることに気づいたスタッフは、電源を入れて透析を開始したところ事故が発生した。
その病院の透析装置の主電源(ブレーカー)は装置の左側にあり、ブレーカーには赤いテストボタンがついている。
テストボタンはブレーカーが正常に機能するか(漏電等が起きたとき通電を遮断する)確かめるスイッチで、おそらく装置の洗浄中、布団などがテストボタンに接触してブレーカーが落ちたものと思われる。
洗浄中にブレーカーが落ちたので、装置内は水もしくは薬液で満たされており、それを知らずに血液ポンプを作動させ、運転スイッチを入れたためにおきた事故であった。
それを聞いたボクは、同じ装置を使用していたので、プラスチックの板にマグネットテープを貼り、ブレーカーに触れないように対策を立てた。
というのは、透析中に主電源が落ちると、警報を発せずに装置が停止してしまい、それに気づかない恐れがあるからだ。
現在当法人で使用している装置はブレーカーはついておらず、透析監視装置には濃度セルがついていて、常時透析液の濃度を監視しているので“水透析”はおきない。
これは事故の発生(他にもあったと思われる)を受けたメーカーが、事故を教訓に対策を講じた結果である。
野遊人